ガスレビューコラム



2025.02.10
ロシア、中国の台頭で不確実性増したヘリウム需給
2024年~25年に掛けてのヘリウム需給は、数年前からの玉不足から一転、玉余りの様相を呈しているが、ロシア、中国という不確定要素が加わり、需給の先行きは不確実性を増している。
経済制裁でロシア玉が中国へ大量に流れ込む
ヘリウムを巡る情勢は、ここ1年の間に大きく変化した。
23年秋に稼働開始したロシアの新プラントは順調に稼働を続けている。
同プラントは、世界のヘリウム供給力不足を補うものとして期待されたが、ウクライナとの戦争によって様相が変わってくる。
ロシアへの経済制裁の一環で、ロシア国内に米国製ヘリウムコンテナが持ち込めなくなり、リンデやエアプロダツクといった欧米系ガスメジャーが次々とロシアからのヘリウム引き取りを停止した。
余った引き取り枠をロシア側は中国に斡旋、中国のディストリビューターは中国製コンテナを仕立てて、中国国内でロシア産ヘリウムの販売を開始した。
現地報道によると、中国国内のロシア産ヘリウムシェアは40%近くに達しているといわれている。
ただ、中国国内でもヘリウム需要は弱含みで推移しており、需要低迷下での供給増に現地ヘリウム販売価格は大幅に下落。
さらに中国国内で捌き切れないヘリウムはインドや東南アジアにも出回り、周辺地域の市況も押し下げている。
その余波は欧米系、日系ヘリウムサプライヤーにも少なからず影響を与えており、中国、アジア地域でのヘリウム事業の収益性を押し下げる要因となっている。
これまで良くも悪くも、欧米日のグローバルヘリウムサプライヤーによって秩序が保たれてきた世界のヘリウム需給だが、ロシアという世界生産量に占める割合が決して小さくない国と中国という世界消費に占める割合が決して小さくない二つの大国の台頭で、市場の制御が効きにくく、事業の不確実性が増すようになってきたのである。
半導体需要回復に期待
足下ではガス余りの状況が続いているヘリウムにおいて、市場の関心は需要の回復が何時頃になるのかということ。
生産調整局面にある半導体向け需要の回復が期待されるところである。
25年以降には東アジアで新たなデバイス工場が完工、操業を開始していくことになる。
半導体生産が回復すれば、日本をはじめ、韓国、台湾、中国などのヘリウム消費は増加していくことになる。
もっとも、生産地が世界的にも限られるヘリウムは、地産地消が基本の産業ガスでは珍しい海を渡って取引される製品である。
プラントトラブルや海上交通の不具合などサプライチェーン上のちょっとした変化でもタイト化するリスクを抱えている。
中東情勢も決して平穏というわけではなく、25年以降、再び需給タイト化に向かわないとは言えない危険性を孕んでいる。
不確実性を受け、省ヘリ、回収・再利用、代替品へのシフト進む国内市場
全量を海外からの輸入に頼る日本の場合、上記のような不確実な情勢を反映して利用現場での省ヘリウム化、回収・再利用・代替品への転換といった対応が進んでいる。
近年ではヘリウム調達価格も上昇している。
輸入価格はここ10年あまりの間に断続的に値上がりを続け、2024年のKg当たりの輸入平均価格は10年前の3.8倍となっている。
こうした情勢を受け、消費先では、先のような代替策を検討、講じてきているのである。